6月12日未明 機銃3点射撃 ドド・ドド・ドド(空襲警報)である、
ビックリして飛び起きる。
銃眼から外を見る、夜は 白みかかっている、今日も敵機が来るのか、
身震いする。
全く嫌な寝覚めであった。西海岸の岩場に避難する。爆撃が甚だしい。
1陣の空襲が終り飛行機が去り暫くの間休みがある、その間に牛岬方面に
退避する。ここには高射砲、機銃陣地がないので爆撃もない、
敵機は頭上を通り越して飛行場を爆撃している。
ここでは爆撃の様子が良く観察できた。
夕方になり空襲警報解除、飛行場に帰り爆弾の穴埋めを行う。
夜遅くなって今日初めての食事が出た。
今日は空腹を感じる余裕さえない1日であった。
6月13日 珍しく今日は空襲警報ない。平常どうり3時起し。
車の退避、仮眠、ハゴイ池のほとりのジャングルにて作業を行う。
なぜか今日は敵の飛行機もいないのに爆発音だけが聞こえてくる。
時限爆弾の破裂かと思ったが、しかし良く聞くとシュルシュルドカンと
シュルシュルという音が聞こえる、昨日までの爆弾の落下音とは
違った音である。
近くで爆発する時はシュルシュルの音が次第につまった音になり
シュシュシュドカーンとくる。
ある時は、シュルシュルシュルと間隔が間延びして次第に遠ざかっていく。
本当に気持ちの悪い音である。
爆撃は飛行機が見えて方向が分かるので安心することが出来たが
今日の爆発だけは始末に負えない。
シュルシュルと音が聞こえると、鉄兜の緒を締めパンの木の根に鼻を
擦りつけて木の回りをグルグル回るのみであった。
陸軍の兵士が海の方から走ってきて『敵艦隊が来た、
海軍の兵隊はラソ山に退避しろ』という。
シュルシュルという音は艦砲射撃の彈道音だったのだ。
今まで考えていた機動部隊撃滅の夢はどこへやら。
只驚き、取るものも取り敢えず、ラソ高地目指してシュルシュルの
弾道音を聞きながら悪夢の中を走る。
途中で海が見えた。
沖は真っ黒で水平線を埋め尽くして艦隊が押し寄せて来ている。
ラソ山の中腹まで登ったとき海がよく見えた。
敵の艦隊は驚くほどの大群である。その数を数えた、
120隻まで数えたがサイパンの沖のものは重なり合って数えられない。
ラソ高地に上がったら敵の状況がさらに良く見えた。
敵の砲撃は飛行場に集中している。艦側でピカッと光り煙が広がる、
暫くしてシュルシュルの彈道音が聞こえてくる、シュシュシュと音は
段々に音はつまって大きくなり、飛行場に着弾しドカンと爆発する。
夜になって敵艦の砲撃の様子が良く観察された。
艦側でピカッと稲妻が走ると砲弾が赤い尾を引きながら近ずいて来る、
砲弾は全て曳痕弾であり、二発並んで来るのが良く分かった。
敵の艦隊は電灯を点けず黒々としている。
発射の度にピカっと稲妻が出て艦のマストがチラっと見える。
あちこちの軍艦が発砲し曳痕弾の赤や緑の火が乱れ飛ぶ、
我が方の損害は莫大なものであるが、この夜景は実に美しく
又身の引き締まる思いであった。
そして、今後どうなるか考えながら暫くのあいだ眺めていた。
『敵艦隊来る』の報を受けた時の驚きは大きかった。
これから先如何なる事態が起きるのか、今までに本で読んだこと、
人に聞いたこと等がこれから現実のものとなって来たのである。
敵の艦隊が来てからは飛行場の穴埋めも出来なくなった。
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