運悪く飛機行機に見付かってしまった。
飛行機が機首を返してこちらを向き13ミリ機銃を撃ってくる、
弾が後ろから追っかけてきてピッピッピッと土煙を上げる、
全然動けない。
グラマンが飛び去ってすかさず走る、グラマンは機首を返して
再び襲いかかってくる、弾が後ろから追っかけてきてピッピッピッと
土煙を上げる。
全然動けない、グラマンが飛び去る。
すかさず走る、グラマンは機首を返して再び襲いかかって来る。
ピッピッと土煙が上がる。飛行機は去った。
徳永を引き摺って走る、大八車の下に4人潜り込む、
来るぞと思ったその瞬間クワックワックワッの発射音と共に
機銃弾が飛んできて附近は土煙に覆われる。
機が近ずく時の発射音はクワックワッと詰まって聞こえるが、
遠ざかる時はドッドドッドッと間伸びして聞こえる。
ドッドッドッの発射音と共に機が遠ざかる。
飛行機はまた機首を返して大八車を攻撃している、横から見ると
砲に見えたのかも知れない。
すきを見て防風林の中に飛び込んだ、今度は防風林の中から
高見の見物ができた。
それにしてもあれだけ撃たれても当たらない時は
当たらないものである。
防風林で休んでいる所へ津田兵曹がやってきた。
上官が来てくれたので幾らか安堵した。
彼は恵良馨上機(上等機関兵)(福岡県糟屋郡出身)と共に
行動してきたが、途中、恵良上等兵は機銃弾に頭を打ち抜かれ
即死したという、爆弾の穴に引き摺り込み土を掛けようとしたが
素手では如何ともしがたく、芋の葉をかぶせて別れて来たとの事だった。
津田兵曹は血潮を浴びて真っ赤である。
徳永と同年兵の中間一機が遮蔽物沿いに近ずいて来た。
我々も防風林で休んで居る事も出来ない、徳永も苦しんでいるので、
早く野戦病院に連れて行ってやりたい、そして我々は一刻も早く
司令部に集合しなければならない。
陸軍の兵士が通り掛かったので聞いてみた、
『野戦病院は撤収されカロリナスには無い、衛生兵は居るが
何処に居るかは分からない』という、誠に心細い事であった。
夕暮れになりグラマンが去った後で、徳永をジャングルの
岩場に運んだ。彼は傷の出血で顔面蒼白でしきりに水を欲しがる、
もう一歩も動けない。
また彼は『俺に構わず貴様達は司令部に行け』と言う、
仕方なく彼の水筒に水を出し合って一杯にしてやり握り飯を渡し、
敵を倒すために1発、自決する為に1発計2発の手榴弾を渡し、
『靖国神社で逢おう』と言って彼と別れた。
その後、彼はどうしたことか。
徳永と別れ、司令部を求めて歩いた。
徳永と別れた所からはアギーガン島が見えていた事を考えると
我々は司令部と反対側のカロリナスの南西方面に来ていると
思われたのでジャングルを通って東側に向かった。
徳永をジャングルに置いて来たので稲尾、中玉利と私の
3人になってしまった。
夜の岩場のジャングルは全く歩きにくい。
何時の間にか空の開けた草地に出た。
ジャングルを歩く時幾らかずつ下に降りていた様だった、
草地の端まで来たら潮の香りがして海岸の上まで来ていた。
夜のジャングルは涼しいとはいえ歩くととても暑い、
水筒の水はもう一滴もない、水筒を口に当てると
水気を感じる程度である、益々喉は乾く。
ままよと、潮水でも飲むつもりで崖を下りる。
テニアン島の海岸線は殆ど垂直に切り立った断崖であるが、
ここは急峻ではあるが坂になっていて木の根や石に掴まれば
下りられそうであった。
木の根を握り草の株に足を掛けつる草に掴まって、半分滑りながら
かろうじて海岸に辿り着いた。
海岸には既に数人の民間人が来ていた、彼等も水を求めて
来たのだと言う。
兵隊さん戦争はどうなるのですかと心配顔である。
我々は一刻も早く司令部に行かねばならないが、喉の渇きを癒さねば
ならない。
兵隊さん水が有りますと一升瓶を渡された、3人で心行くまで飲んだ、
喉の渇きは治まり腹は満腹になりひもじさも忘れていた。
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